2023.08.07
数次相続が起こった場合の税務上の留意点

■はじめに
相続税申告を多数手掛けているとお父さんに相続発生して、間もなくお母さまも亡くなってしまう、いわいる数次相続のケースがでてきます。
数次相続の場合には税務上の検討事項を踏まえて遺産分割や申告業務の助言支援を行っていかないと税務賠償となり得る場合もございますので、今回はその数次相続の際の遺産分割の留意点について記載いたします。
なおここでは配偶者とお子様がいらっしゃる場合の数次相続を前提としてお話しいたします。
■留意点
①一次相続と二次相続の最適税額シミュレーション
これは数次相続に限ったことではありませんが、一次相続が起こった場合には
配偶者の相続割合と固有財産による二次相続シミュレーションを行い、一次と
二次のトータル税額を加味した遺産分割を行うのが一般的です。
配偶者がそれなりの固有財産を所有している場合には一次相続時に配偶者の財産取得割合が低いほうがこのトータル税額が低くなる傾向にあります。
数次相続の場合にはほぼ同時に申告納税の判断が必要となりますので、より正確なシミュレーションが求められます。
②特定居住用小規模宅地等の特例
特定居住用の小規模宅地等の特例は配偶者又は同居親族が相続した場合に
対象となるのが原則であり、配偶者および同居親族がいない場合に家なき子
特例の対象となる可能性がでてきます。
例えばお子様が誰も同居していないケース、一次相続では配偶者がご自宅を相続することで特例を適用できますが、お子様が相続した場合は特定の適用はできません。
また、配偶者がご自宅を相続したとして、二次相続ではお子様が家なき子の特例を満たさない限り特例は適用できません。
税額シミュレーションを行う場合は、この小規模宅地等の特例は大きな要素に
なりますので適用要件をしっかりとチェックして検討を行うようにしましょう。
③空き家に係る譲渡所得の3,000万円控除の特例
お子様が持ち家にお住いの場合は、相続したご自宅についてすぐに売却を検討するケースも増えております。数次相続の場合でどうせ売却する予定だからと一次相続で
お子様が相続してしまうと、譲渡所得税上で落とし穴の可能性があります。
それが令和5年税制改正項目の一つとなっている空き家の譲渡特例です。
この空き家の譲渡特例は二次相続でのみ使える特例です。
一次相続でお自宅を相続後売却の流れだと特例の余地がなくなってしまいますので、3年内に早期売却を考えている場合には空き家の譲渡特例の適用の有無も検討したうえで一次二次相続の遺産分割を行う必要がでてきます。
■事例
一次相続:お父様(ご自宅を含む相続財産1.1億)
二次相続:お母様(固有財産:7千万円)
相続人:お子様2人
※お父様が亡くなって数カ月後にお母様に相続発生
※お子様は持家遠方にお住まい
※ご自宅は売却を希望
①一次二次税額シミュレーション
一次相続で配偶者の相続割合が少ないほどトータル税額が低くなる
②特定居住用小規模宅地等の特例
お子様は持家ありのため特例の適用は不可
③空き家の譲渡特例の検討
ご自宅はすぐにでも売却見込みが高く譲渡所得が1,500万くらい発生しそう
結論
一次相続ではご自宅のみお母さま相続としてご自宅以外はお子様2人で相続することにしました。
お母様の固有財産がそれなりにあるため一次相続ではお母様が全く財産を取得しないほうが一次二次でのトータル税額が最小となりましたが、すぐにでもご自宅は売却したいとのことで空き家の譲渡特例の適用の余地を残すためご自宅だけはお母様を経由して相続することにしました。なお、小規模宅地等の特例まで加味すると二次相続税の増加額よりも空き家の譲渡特例による所得税の税効果のほうが大きいという結果になりました。
■おわりに
いかがでしたでしょうか。
数次相続が起こった場合の税務上の論点をいくつかあげさせていただきました。
小規模宅地等の特例や空き家の譲渡特例は税金に与える影響が大きくなるため細心の注意が必要となります。詳細の適用要件等については今一度ご確認のうえ、今後のご参考にしていただければと思います。